人口減少社会における旅客輸送サービスの再検証:大都市圏以外における調査結果と移動格差解消に向けた解決策

人口減少社会における旅客輸送サービスの再検証:大都市圏以外における調査結果と移動格差解消に向けた解決策

Access Partnershipと国際大学グローバル・コミュニケーション・センター、日本における移動格差の実態を調査、交通システムの改善がもたらす経済効果を推計

人口動態を踏まえたライドシェアなどの柔軟な交通手段の導入により、年間5.8兆円の経済効果が期待

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著者: Abhineet Kaul (Access Partnership), Swee Cheng Wei (Access Partnership), Chailyn Ong (Access Partnership)

アドバイザー: Dr. Tomoaki Watanabe (GLOCOM), Dr. Masato Ito (GLOCOM), Tatsuo Tanaka (GLOCOM)

政策コンサルティング会社のAccess Partnership(アクセス・パートナーシップ)と国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)は、高齢者や地方などにおける移動困難の現状と、それを解消することで得られる経済効果を定量化した新たな調査を発表しました。調査結果では、ライドシェア、マイクロモビリティ、自動運転などの革新的な移動手段の導入によって交通アクセスが改善すれば、移動コストの削減や経済活動への参加促進により、GDPの1.4%にあたる年間5.8兆円もの経済効果がもたらされることが明らかになりました[1]。このうち16%にあたる9000億円は、日本でもすでに限定的に導入されているライドシェアの広い展開によって実現されます。

背景と概要

日本の交通システムは、効率性と信頼性において、長きにわたり世界に誇る高い水準を維持してきました。しかし、高齢化や人口減少などによる社会ニーズの変化に伴い、すべての国民の移動アクセスを確保し、経済活動を持続的に維持するためには、移動手段のあり方と政策について抜本的な見直しが求められています。こうした課題解決の一助とするため、アクセス・パートナーシップとGLOCOMは今回の調査を実施しました。

岐路に立つ交通システム

国内の利用者、地方に所在するサービス産業、訪日観光客を対象に実施したアンケート調査の結果は下記の通りとなり、交通アクセスの改善によって大きな可能性がもたらされることが示されました。

  • 移動格差:日本の交通インフラは依然として世界トップクラスである一方、調査対象住民の約半数が、過去6カ月間に移動に困難を感じたと回答しており、「移動に困難を感じることが週1回以上あった」という回答は7%に及ぶ。また、回答者の43%が、日本の交通システムが高齢化や将来の経済ニーズに対応できるか懸念している。
  • 企業成長と経済成長へのリスク:地方に所在するサービス産業の40%が、よりアクセスの良い柔軟な移動手段が利用可能になれば、自社の事業が改善すると考えている。
  • 観光客の移動格差に伴う機会損失:訪日観光客の62%が、旅行中に移動手段に関する何らかの課題に直面しており、80%が、ライドシェアのようなサービスが利用可能になることで交通の便が改善するだろうと回答している。これは、今後も増加が見込まれる訪日観光客の間で、より柔軟で便利な移動手段に対して大きな需要があることを示唆している。

交通事情の戦略的変革の必要性

日本は、交通エコシステムの未来を形成する上で極めて重要な局面を迎えています。政府は、運賃、アクセス、効率性のバランスを取りながら、都市部だけでなく地方のニーズも満たすよう、交通インフラの改革を進めていく必要があります。

  • アクセスと経済活動を維持する新たな移動サービスの検討:日本の人口動態上の課題を踏まえると、バスや鉄道などの従来の大量輸送サービスの維持・拡充には限界があり、テクノロジーを活用したより柔軟なソリューションの検討など、効果的な交通改革が必要である。オンデマンドバスやライドシェアをはじめとするシェアサービス、移動型消費者サービス、自動運転などの実証と効果検証を進め、広く展開することで、高齢者、地方在住者、企業の経済活動を活発化し、日本が世界で競争力を維持することにつながる。
  • 新しい交通手段をめぐる規制の整備:特にライドシェアなどのシェアモビリティサービスについて、イノベーションを可能にする規制を整備する必要がある。シンガポールや台湾では、これらのサービスはすでに交通システムに上手く統合されており、利用者の交通サービスへの高い満足度の一助となっている。
  • 交通アクセス改善の経済的・社会的効果:上記のような移動格差の解決に取り組むことで、年間で最大8兆円の経済効果を生み出せる可能性があり(図表1)、そのうちライドシェアの導入による効果は、全体の16%を占める9,000億円が期待できる。さらに、交通手段の選択肢が増えれば、経済的利益を超えて健康や幸福度の向上、持続可能性の向上、渋滞緩和による時間節約など、より広範な社会的利益をもたらす可能性がある。
図表1:年間5.8兆円の経済的利益(関係者別の経済効果)

日本の交通の未来を強化する、エビデンスに基づいた政策立案

今回の調査では、交通政策において、オープンでエビデンスに基づいたアプローチが喫緊に必要であることを強調しています。日本が、急速な人口動態の変化に直面する今、すべての人々が公平に交通機関にアクセスできるようにし、経済成長を持続させるには、データに基づいた交通事情ソリューションを採用することが極めて重要となります。

国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの主幹研究員/教授である渡辺 智暁氏は、次のように述べています。「この研究は、交通に関する課題と将来的なポテンシャルについて定量化することを試みています。幅広いステークホルダーの方々が日本におけるこの重要な課題についての議論を進めていくうえで必要となるデータを提供するものになっていることを願っています。」

[1] 注:国内の利用者および地域のサービス産業に関する推計では、すでに交通アクセスが優れており、その改善から得られる便益が少ないと考えられる人口が最多の3つの都道府県(東京、大阪、神奈川)を除外して、経済効果の総額を保守的に試算・推定した。訪日観光客に関しては、交通アクセスの状況が異なる複数の地域を訪れることが予想されるため、全都道府県を含めて推計している。GDPに占める割合の計算においては、公平な比較基準とするため、日本全体のGDPから三大都府県を除外している。

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